人類と大麻草の深く長い関係

 人類は、大麻を少なくとも1万年前から栽培して来ました。南極を除くすべての大陸で大麻が栽培されています。古代中国やメソポタミアでは、大麻が食糧や繊維の原料として利用されていました。大麻利用は、単純なロープや粗野な織物から発展し、紙や船の帆へと進化して行きました。世界最古の繊維生地(約8000年前)は、大麻繊維で作られていました。同じ「麻」を使う植物は他に、「亜麻」(アマ)、「黄麻」(ジュート)、「洋麻」(ケナフ)などがありますが、学術的には別の種類の植物で、大麻(ヘンプ)との類縁はありません。世界最古の紙は約2100年前に中国で作られていますが、大麻と桑が原料でした。アメリカ合衆国憲法の草稿やトーマス・ジェファーソンによるアメリカ独立宣言の草稿は、大麻の紙に書かれていました。アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンも第3代大統領トーマス・ジェファーソンも、自身が所有するプランテーションで大麻を栽培していました。画材の「キャンバス」は、ラテン語で大麻を意味する「カンナビス」に由来しています。バン・ゴッホもゲインズバラもレンブラントも大麻製のキャンバスを中心に使用し、創作活動を行っていました。19世紀まで船のロープと帆は、大麻で作られていました。ベンジャミン・フランクリンは、有名な凧の実験で雷が電気であることを証明しましたが、実験で使った凧糸は大麻製でした。
 大麻の種とフラワートップは、紀元前2700年~ローマ時代に至るまで、様々な病気の治療に用いられてきました。中国では、最古の薬物学書「神農本草経」に記され、漢方薬として利用されてきました。日本でも民間の生薬として、伝統的に薬用利用がありました。北米では大麻は極めて重要な作物だったので、1600年代初頭から法律で栽培を義務付けていた地域もありました。当時の入植者たちは、大麻から油や衣服、帆やロープを作っていました。1900年代初め、ヘンリー・フォードはT型フォードを世に送り出し、自動車産業に革命を起こしました。T型フォードは、革新的なデザインや大量生産の象徴的な存在として知られていますが、ヘンリー・フォードが1941年に試作したプロトタイプ車「DEARBORN」のボディーは大麻樹脂で作られ、大麻エタノール燃料で走る車を構想していました。

大麻草・抑圧から解放へ

 1937年、米国でマリファナ税法が可決され、マリファナ及びカンナビス科すべての植物の栽培・生産が禁止されました。マリファナの薬効を尊重した米国医師会が、法案に反対しましたが、可決されてからは、大麻は禁止されるようになりました。以降、北米において産業用大麻は人の手を離れ、その生存が自然の手に委ねられることになりました。約60年の間、大麻は野生植物となり、強い種類が生き残り、その生殖細胞が維持されて来ました。その後一部法改正が行われ、遺伝学者や植物育種家による大麻種の管理が復活しました。
 1961年、麻薬使用に対する監視と調整のための世界的な基準に加え、違法行為に対する国際調整のアウトラインとして、国連は、「麻薬単一条約」の草案を作りました。あろうことか、産業用大麻は、部分的に例外措置の適用を受けたものの、カンナビス科植物の一種として、麻薬管理対象に含まれることとなりました。の国連決議では、カンナビス科植物の葉の違法な取引や誤った利用を防ぐため、各国が対応する必要性に言及しています。この国連決議以降現在に至るまで、大麻は、コカインやヘロイン、バルビツール麻酔薬、向精神薬等と共に「規制物質」として誤認識されています。
 1988年にカナダ政府は、産業用大麻の栽培と加工生産を許可する法律を施行し、これにより60年間の沈黙を破り、産業用大麻を原料とする食品と繊維の生産が行われ、海外にも輸出されるようになりました。一方で、医療用と区別するため、カナダ保健省による厳しい監視と規制を受けています。

 日本の大麻草

  大麻がいつどのようにして日本に渡来したのかは不明ですが、縄文時代の極めて早い時期には既に日本の広い地域に生育していたと考えられています。ウィキペディアによると、「元来日本語で麻繊維といえば大麻から作られた繊維を指す名称であった。古代から日本に自生し繊維利用が盛んだった大麻を単に『麻』と呼称していたが、後に海外より持ち込まれた『亜麻』(アマ)、『苧麻』(チョマ)などを含めた植物繊維全般をさして麻の名称を使うようになったため、元来の麻を『大麻』(おおあさ、たいま)と 呼称し、区分して使うようになった」とあります。日本では古来、衣服やしめ縄、ご神事(神職がお祓いに使う大幣<おおぬさ>など)に大麻を使用してきました。また、戦前までは日本薬局方に収載され、医薬品として利用されていました。現在でも身近なところでは七味唐辛子には大麻の実が入っています。

 強い生命力と環境に優しい大麻草

 大麻は捨てるところがない汎用性の高い植物です。大麻を産業的に利用すれば、石油で出来ることはほとんどすべて補えると考えられています。1938年に米国で発行された雑誌「ポピュラーメカニクス」では、大麻を「新規のビリオンダラー作物」として紹介する記事が掲載されています。この記事は、ダイナマイトからセロファンに至るまで25,000種類の大麻の応用例を紹介しています。大麻の種は良質な脂質とタンパク質を多く含むことから、食品や化粧品の原料となり、種実油は軽油や灯油の燃料に、その繊維は衣類の良質な糸や紙、住宅建材やバイオプラスチックの原料になります。高い利用価値と汎用性は、200年前の米国において大麻による納税が認められていたほどです。麻の茎には木材の約4倍の繊維パルプか含まれています。なおかつ、木材が育つのに数十年かかりますが、大麻は3~4ヵ月で育ちます。更に大麻は毎年収穫可能で、生産効率が高い上、生育中に吸収するCO2の量が、建材として作られる際に排出されるCO2の量より多いので、CO2排出削減効果的にも「カーボンポジティブ」な作物と言えます。雑草よりも成長が早いので、そもそも栽培にあたり除草剤が必要ありません。大麻は生命力が強く、農薬を使用しなくても十分に育ちます。大麻には、空気中の窒素やエネルギーを土壌に循環させる強い還元力があります。連作障害で疲弊した土壌は固くなりますが、大麻は力強く地中に根を張り巡らせるので、土壌の微生物環境を回復し、土壌を柔らかくする効果もあります。カナダでは小麦の輪作作物として大麻が栽培されています。

産業用大麻(ヘンプ)と医療用大麻(マリワナ等)

 基本的に、産業用大麻はマリファナではありません。マリファナはTHC(テトラヒドロカンナビノール)を多く含む大麻を原料としていますが、産業用大麻はTHC含有が0.3%以下です。両方ともカンナビス属に由来していますが、キャノーラと菜種、デュラム小麦と小麦の関係のように、類似した特徴を持っていますが、利用用途や分化において決定的な違いがあります。では、THCは麻薬成分かと言うとそうではありません。含有の有無により、医療用大麻と産業用大麻に大別されますが、THC含有の多い種類の大麻は、医療用として利用されています。欧州やカナダでは様々な産業用大麻の品種がありますが、繊維や種子などそれぞれの目的に応じ、新しい品種が開発され、品質が向上しています。繊維を取るための大麻は背が高く、太い茎が特徴で、食品用は、丈は中背ですが、種を多く実らせます。繊維が目的の場合は、密集して定植しますが、種の収穫を優先させる場合は、ある程度の間隔で栽培しています。

 

産業用大麻(ヘンプ)の種子(シード)を圧搾したヘンプシードオイル

 ヘンプシードオイルは、産業用大麻(ヘンプ)の種子(シード)が原料です。アルコイリスのヘンプシードオイルは、カナダ産産業用大麻種子を圧搾した無添加・未精製の植物油です。大麻種子本来の栄養価値や風味を損なわないよう、殻剥き~分別~搾油に至るすべての製造工程を低温で管理しています。麻の実特有のきれいな緑色と、上品な香りをお楽しみ頂けます。硬化油や精製油の製造過程で発生するトランス脂肪酸は、一切含まれていません。
 ヘンプシードオイルの特徴の一つとして脂肪酸組成があります。不飽和度が高く飽和脂肪酸が少なく、且つ必須脂肪酸の割合が大きい点が特徴的です。不飽和脂肪酸の合計は、脂質全体の90%程度を占め、その主な内訳は、リノール酸を中心としたオメガ6が約55%、α‐リノレン酸を中心としたオメガ3が20%程度、オレイン酸を中心としたオメガ9が10%となっています。また、必須脂肪酸(オメガ3とオメガ6の合計)の割合が大きく、脂質全体の75%程度を占めています。また、日常的に食事からの摂取が難しい、貴重なγ‐リノレン酸の含有も特徴的です。また、食事からの摂取が難しいと言われているγ‐リノレン酸の含有も特徴です。γ‐リノレン酸は、正常で健康な皮膚の構造と機能や女性ホルモンの補完的な働きが注目されています。
 ヘンプシードオイルの主要な栄養価値は、必須脂肪酸のバランスも考慮した上で、理想的な脂肪酸組成にあるとする考え方が多く存在する一方、近年そこに含まれる脂溶性微量成分に関する研究が進んでます。医療用大麻の有効成分としては、精神的作用を伴い様々な薬効をもたらすテトラヒドロカンナビノール(THC)がよく知られていますが、産業用大麻由来の天然成分については、1964年にイスラエルの化学者ラファエル・メクラム氏によってその化学構造が固定されて以来、カンナビジオール(CBD)に関する研究が大きく進展しました。カンナビジオールは、THCとは異なり精神的作用がない一方で、けいれんや発作の抑制、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、統合失調症、認知症、骨粗しょう症などの治療に役立つことが期待され、米国ではニューヨーク、ワシントン、カリフォルニアを含む半数以上の州で合法化されています。CBDを始めとするヘンプ由来のカンナビノイド化合物は、これまでの研究において120種類以上が特定されています。これらカンナビノイド化合物群に含まれる各々の化合物は、私たちのからだの様々な部位に分布するカンナビノイド受容体に対し個別的に作用することで、それまで閉じていた細胞同士のコミュニケーション回路がオンになり、神経細胞を活性化するとも考えられています。
 THCやCBDの他にも、フラボノイドや、血中コレステロールの低下、動脈硬化・心疾患の予防や免疫機能調整に用途のある植物性ステロール(β‐シトステロール)、ホルモンバランスの調整や精神安定効果のあるβ‐カリオフィレン、ミルセン等のテルペン、アルピリンの原料としてよく知られているサリチルメチル酸、強力な抗酸化力を持つビタミンE(トコフェロール)や様々なミネラル等天然成分の含有が明らかとなっています。チャスキオイルには、ヘンプシードオイルに由来する天然の有効成分が含有されています。

 ヘンプシードオイルは、カンナビノイドを中心とするファイトケミカル(ポリフェノール)など、大麻草ならではの栄養価値を十二分に享受するためにも、非加熱でお使い頂くことをお薦めします。